インタビュー

できなさを味わい続けた27年。それでも保育って、おもしろい。<後編>

自身の子育ても経て、だんだん保育の仕事を「おもしろい」と思うようになったという、きむらみちこさん。27年というキャリアを経ての変化とともに、今どうして新しい道に進もうと思ったのか。潜在保育士として今、なにを考えているのかを伺いました。

(インタビューの<前編>はこちら)

  1. きっかけは海外協力隊
  2. 保育のおもしろさと、子育てをはじめての変化
  3. 仲間が教えてくれた「人に頼っていい」ということ
  4. 新しい道へ。保育士の可能性を、ひろげたい
  5. 「心が動いた瞬間を、大切に」

3. 仲間が教えてくれた「人に頼っていい」ということ

長く保育士をしてきましたが、ぜんぜん順風満帆な保育士生活じゃなかったですね。とにかく、出来なさをあじわい続けた27年でした。

実は私、本当に人に頼るのが下手で。つい何でも自分でやらなきゃって思ってしまうんです。それを頼れるようにしてくれたのが、一緒に働いていた仲間でした。

私もそうなんですけど、うちの子が、何というか集団の中では生きづらさを感じてしまうタイプの子で。大きくなるにつれて、トラブルも重なるようになりました。呼ばれて学校に行かなきゃいけないけど、仕事の責任も増えていたし、そこの手は抜きたくなくて。でも全部をやろうとしても、実際はぜんぜん出来てないし、そのうち生活すら回らなくなってしまって。どうしても頭を下げなきゃいけない状況が、たくさん出てきました。

そんなとき、当時の園長に言われたんです。「あんた、もっと人に頼ったらええねんで」って。責任感を持ってくれることはありがたいけれども、一人で抱えんともっと仲間信用して、母親としての自分も大事にしなさいと言われて。

それで、当時チーフをしてたチームのメンバーに「ごめん、悪いけど家こんな状態やし、急に休んだりするかも」ってポロポロ泣きながら話して。初めてそこで年下の子に頼ったんですよ。

そうすると「なんでそんなになるまで言うてくれなかったんですか!」「こっちは任せてくださいよ!」とか言ってもらって、“あぁ、私もっと人に頼って良かったんや” って、ようやく気づきました。

もうどうしようもない状況を経験して、初めて人を頼る安心感を学んだというか。

そこからは一人の保育士として、保護者にもずいぶん自分をさらけ出せるようになりました。「保育士も実はこうなんよ〜」とか。もちろん、踏み込んではいけない部分はありますけどね。

でもそれまでは保護者に「頼って頼って」って言いながら、自分が人を頼れてなかったことに気づいたんです。そうじゃなくて、まず自分が正直な気持ちを言わないとダメだなって。そうすれば、相手も心を開いて頼ってくれるんだってことを、保育士と保護者との関係でも教えてもらいました。

4. 新しい道へ。保育士の可能性を、ひろげたい

公立を辞める3年前、児童館へ配属になりました。そこで、実は地域には孤独に子育てをしている人たちがたくさんいる、ということを目の当たりにしました。毎日保育園に通える親子がいる一方で、児童館にすらなかなか来られない人もいる状況も、初めて知って。

2年働いて保育園に戻っても、「あのお母さん今どうしてはるやろ」とかずっと気になっていました。

行政もいろんな支援をされていますが、本当に必要な方のところまで届けるのには皆さん苦労されてます。公立の保育士の立場では、どうしても個人と個人として深く関わることは難しい。

もう一つ、自分の子どもに「大人になっても夢に向かってチャレンジしている姿を見せたい」という気持ちも大きくなっていて、2016年に公務員を辞めました。

退職後はTsunagaroという名前で、保育士の資格を生かして活動を始めました。地域の子育てに寄り添うためにいろんなイベントをやったり、シッターや病児保育を請けたり、保育所を運営する相談に乗ったりもしていました。

また子育てに悩んでいる方の相談に乗っていく中で、「わたし、本当は保育士だったんです」そう、そっと教えてくれる元保育士さんに何人かお会いしたんです。自分が保育士だったことをなかなか言えないのは何でかな?と思ったことがきっかけで、潜在保育士にも関わるようになりました。それまで自分なりに頑張ってきたことを、もっと胸を張って言えるようになったらいいのにって。

いろんな事情の中で今は保育園で働いていなくても、保育の専門性を活かして、地域で活動できる人がたくさんいたらいいんじゃないかなって思うんですよ。

もちろん、自分の生活でいろいろ抱えていても、保育の現場が戻りやすくなったら、それもすごくいい。

なので今自分が活動しているのは、“保育士の可能性を探したい” という気持ちも大きいんです。保育士ってこんなこともあんなこともできるよって、言えるようになったらいいなと思っています。

5.「心が動いた瞬間を、大切に」

私はもともと高い保育の理想を持っていたわけでもないし、ぜんぜん優等生じゃない、むしろ問題だらけでした。でも目の前のことを一生懸命こなしてるうちに、保育の魅力に取りつかれてしまったのかなと思います(笑)

いろいろ経験してきて、保育園も辞めて、それでもやっぱり保育が好きなんですよね。

自分の場合はこう言えるまでに20年以上かかってしまったけど、保育士として長年働かないとその気持ちが味わえない、とは思わないんです。きっとその人ごとに、保育士としての自分を見つめたり、保育について感じるポイントが来るんじゃないかなって。

ただ何か自分の心が動いたときに、そのことを流さないでおくのだけは、大切だなって気がしていますね。 “こうでなきゃ” ってものは、何もないと思います。

保育の現場って、人それぞれの価値観があって。子どももいろいろで、保護者もいろいろで、仲間もいろいろで。あんなリアルな人間を学ぶ場所って、なかなかないなって思うんですよ(笑)

お互いの話を聞いて、自分の価値観がどんどん変わったりもする。すごくリアルな、人が育つ場所なんです。

そういうのを面白がれる保育士さんが、これからもっと増えるようにしてきたいなと思っています。

 

(インタビュー・文/佐々木将史)